スタッフ全員で綴る連載コラム
Vol.168
2019年07月01日
40歳を過ぎた頃でしょうか、寺社仏閣に心惹かれるようになったのは。特に五重塔のある風景にはどこか懐かしさを感じ心が落ち着きます。日本には国宝の五重塔が11基存在しますが、決して実用的ではないこの木造建築は寺のシンボルとして日本各地に存在します。
日本最古の法隆寺や日本一高い京都のシンボル東寺の五重塔も好きですが、最も好きなのは室生寺の五重塔です。室生寺は奈良県宇陀市にある真言宗の寺ですが、女人禁制をしていた高野山に対して、女性にも開かれたことから「女人高野」とも呼ばれています。現在、室生寺の表門の前には「女人高野」の石柱が立っています。私の好きな写真家の土門拳さんの女人高野室生寺という写真集を見て、いつかは訪れたいと思っていましたが、長年の夢が叶い昨年7月に訪れることができました。京都には大学時代からたびたび訪れる機会がありましたが、奈良は修学旅行以来で、なんとほぼ40年ぶりでした。
室生寺の五重塔は1998年に台風被害を受け甚大な被害を受けましたが、多くの人の助けによっておよそ2年で修復が完了しました。修復時の調査で800年頃の木材で作られており、法隆寺の五重塔に次ぐ古さであることが判明しました。室生寺の五重塔の最大の特徴は、屋外にある五重塔としては日本一小さく、高さは16m強で法隆寺の塔の半分くらいしかありません。室生寺の伽藍は、山の斜面に数段の平地を造り雛壇のようになっていて、下から弥陀堂、金堂、本堂、五重塔の順になっています。
本堂の左手前の石段の下に立つと、鮮やかな朱色の五重塔が目に入ってきます。木々に囲まれた可憐で優しさを感じるたたずまいは、言葉を失うくらい美しく、春には桃色のシャクナゲの花、冬には白い雪とのコントラストが美しいそうです。
写真家の土門拳さんは雪の五重塔を見るために40年間も通い、昭和53年にようやく遭遇した感激をこう記しています。
「ついに見た。そしてついに撮った。」金堂内には釈迦如来立像や十一面観音立像、弥陀堂内には釈迦如来坐像などの仏像が安置されており、仏像好きな私にとってはたまらない寺の一つです。
五重塔を過ぎてさらに進むと、無明橋という朱色の橋が見えてきます。その先は、大きな木々の中に奥の院へと続く急勾配の石段が延々と続いています。
作家の五木寛之さんが70歳の時「百寺巡礼」という2年間に百の寺を巡る旅に出ました。
この時最初に訪れたのが室生寺で、この奥の院へと続く長い石段を苦労しながら登っていたのを見て、室生寺を訪れる際には、自分も必ず奥の院まで行ってみたいと思っていました。
実際に石段を登ってみると思っていた以上にきつい道のりで、7月の暑さもあって脱水と過換気のため何度も休憩をとりました。やっとの思いで奥の院にたどり着いたときは、満足感というよりは脱力感の方が強かったことを思い出します。
日頃の運動不足もあり、自分も年を取ったものだとあらためて感じました。
今回の旅行は、その後長谷寺、東大寺、興福寺、法隆寺を巡りました。興福寺と法隆寺は五重塔以外にもお気に入りの仏像も多いため、大変満足することができました。
京都と比較すると観光客も少ない印象でしたが、今回改めて奈良の魅力を実感することができました。
近いうちにまた訪れたいと思います。